本格的に春の足音が聞こえてきましたが、実は年明けから4月頃までの春先が、乾燥と強風が重なり1年で最も火事の多い季節であることはご存じでしょうか。入居者の安全を預かる身として、また大事な不動産を万一の火事から守るためにも、火災対策の重要性を今一度確認しておきましょう。

火災リスクは保険だけでは補いきれない

アパートの火災対策として、まず皆さんが挙げるのは保険でしょう。契約している火災保険で、あるいは借主の契約する借家人賠償責任保険によって、万一の際は損失を補おうと考えている方も多いと思います。

しかし、保険で補填できるのはあくまで一時的な金銭的損失のみであり、それだけで安心というわけでもありません。例えば、火災後の「部屋を貸せない期間の家賃収入」は特約がない限り保険からも補償されません。また、火災があった事実は長期間にわたって不動産取引時の重要事項説明の対象となり、将来の取引額に悪影響を与える可能性があります。

さらに、火災で入居者が亡くなるような事態となれば、建て直して貸すにしても、更地にして売るにしても、入居者死亡という心理的瑕疵がつきまとうことに。不動産価値を維持し、無用な損失を避けるためには、やはり根本の「火事を出さない」という防火の意識と、被害を最小限に抑える対策が必要なのです。

定期消防設備点検の実施

防火対策としてまず実施すべきは、消防用設備の設置と定期的な点検です。延べ床面積150㎡以上の共同住宅の所有者等には、消防法によって消防用設備の設置と6ヶ月ごとの設備点検が義務付けられています。また、その点検結果は3年に1度、所轄の消防長または消防署長に報告しなければなりません(延べ床面積1,000㎡以上は有資格者による点検が必要)。

いくら消火器等の消防用設備を備えていても、いざというときに使えなくては意味がありません。定期消防点検の実施率は、残念ながら全国平均で48.9%に留まっているのが現状(消防庁発表、2020年3月時点)。大丈夫だろうと自己判断せず、まずは点検を実施しましょう。

古いガスコンロの交換

消防庁の発表によれば、2020年の住宅火災の発生原因第1位はガスコンロ。これを安全性の高いものに交換するだけでも火災リスクは低減できます。2008年の法改正以降、家庭用ガスコンロには全口に「調理油過熱防止装置」「立ち消え安全装置」等が搭載されていますが、物件のコンロがそれ以前の製品の場合には、新しい機種やIHコンロへの変更の検討を。これは空室対策を兼ねられる、一石二鳥の防火対策です。

敷地内の可燃物を徹底排除

数ある出火原因の中でも、無視できないのが放火です。放火対策としては、まずは物件内に可燃物が放置されない環境を作ることが有効。例えば、ゴミ置き場にゴミステーションを導入して可燃物が見えづらい・いざというとき延焼しにくい環境を作る、敷地内に放置された枯れ枝や枯れ草を撤去する、共用廊下に私物を置かせない、防犯カメラを設置する等の施策によって、放火リスクを低減することが可能です。

住宅用火災警報器で被害抑制

実際に火災が発生してしまった際のリスクヘッジとして、住宅用火災警報器の設置も欠かせません。住宅用火災警報機は、2006年に新築住宅への設置が、2011年には新築・既存を問わない全ての住宅への設置が義務化されていますが、築15年を超える物件では未設置のケースも目立ちます。

消防庁の調査によれば、2021年時点の住宅用火災警報機の設置率は83.1%。住宅用火災警報器によって人的・物的・金銭的被害が5~6割程度に抑えられることも明らかになっています。設置を後回しにしてきてしまったという方は、この春の入居者入れ替わりの機会に是非、設置をご検討ください。