将来、残された家族が争うようなことのない円満な相続を実現するには、事前の対策が必要不可欠です。しかし、公平な遺産分割や節税対策を考えたくとも、所有している財産の全容を正確に把握しないことには先へ進めません。現在の財産状況を整理し明らかにする「財産目録」の作成は、遺言書作成にも必要な相続対策の第一歩です。

目録の有無で家族の負担にも大きな差

相続における財産目録とは、分かりやすく整理された被相続人(故人)の財産の一覧表です。作成にあたっては、預貯金や有価証券といったプラスの財産はもちろんのこと、各種ローンなどのマイナスの財産も記載し、相続に関わる全財産を漏れなく洗い出すことが重要です。主として財産目録は、遺言書の添付資料や遺産分割協議の資料として用いられ、相続税の申告などの円滑化に役立てることができます。

目録の作成は義務ではありませんが、財産目録がない状態での相続は、残された家族が被相続人の財産を調べることから始めなければならず、その負担は決して小さくありません。そればかりか、後から相続人の知らない財産が発覚して遺産分割協議が停滞・やり直しになる、相続税の申告期限に間に合わず節税策が無駄になる、などの不測の事態で混乱を招く恐れも。家族に負担をかけずスムーズな相続を行なうためにも、まずは思い立った時に財産目録を作成しておきましょう。

財産目録には種類・数量などを細かく記載

目録を作る際は、それぞれの財産の名称だけでなく、種類、数量、所在など、その財産を特定できる情報も書き出す必要があります。通帳や証券の報告書、不動産の登記簿謄本などを参考に、情報を正確に漏れなく記載していきましょう。ご自身での作成が難しい場合は、行政書士や税理士など専門家の手を借りるのもひとつです。

財産目録の記載例

不動産価格は各評価方法の「価格差」に注意

賃貸経営者が目録作成時に注意すべきは、不動産の評価額の記載です。というのも、不動産は預貯金・有価証券などと異なり、資産価値の評価方法が複数あるからです。

その代表例が、土地に複数の価格があることを示す【一物四価】という言葉。「実勢価格」「公示価格(地価)」「固定資産税評価額」「相続税評価額」の4つの評価のうち、財産目録には固定資産税評価額を記載することが一般的ですが、過去に問題視された“タワマン節税”の仕組みのように、不動産は評価方法によって価額に大きな差が発生することがあります。

目録の評価額をもとに遺産分割をした結果、かえって不公平が生まれトラブルになってしまった、なんてことも起こりかねないため、遺産分割まで見通して目録を作成するなら、あわせて不動産評価の種類と価格差のことも押さえておくべきでしょう。

実勢価格…実勢価格とは、実際に不動産が取引される際の価格です。つまるところ「市場でいくらの値がつくか」という相場価格であり、過去の取引事例等から算出します。一般個人で把握することが最も難しい一方で、譲り受ける相続人が最も関心を寄せる価格であり、「公平な遺産分割」を考える際の基準とすべき価格です。

公示価格…公示価格とは、毎年3月に国土交通省が発表する、その年の1月1日時点における標準地1㎡あたりの価格です。土地取引の指標として実勢価格の参考とされるとともに、土地の相続税評価や固定資産税評価の基準としても利用されます。

固定資産税評価額…固定資産税評価額は、私たちが納める固定資産税を算出する際の基準となる価格で、各市町村が算定しています。毎年の納税通知書に添付された「課税明細書」に評価額が記載されているため確認しやすく、この点から財産目録への記載が一般化しています。明細書が手元にない場合には、役所で固定資産税評価証明書を入手するか、固定資産課税台帳を閲覧することでも確認できます。

相続税評価額…相続税評価額は、相続税や贈与税を算出する際の基準となる価格で、国税庁が定めた「路線価」または「倍率」の指標をもとに算出します。どちらの指標を用いるかは不動産の立地によって異なり、都市部では主に「路線価×土地の面積」で評価額を算出する路線価方式が、郊外など路線価の設定されていない地域では「固定資産税評価額×倍率」で算出する倍率方式が用いられます。最終的な相続税額の算出にも関わる以上、財産目録作成時点でも押さえておきたい価格です。

なお、各評価額は公示価格を「1」とした場合、実勢価格は1.1~1.2倍程度(※市場によって変動あり)、固定資産税評価額は0.7倍程度、相続税評価額は0.8倍程度になるといわれ、これを目安に不動産の価値をざっくり計算することも可能です。

このように各財産の価値を調べながら目録を作成していくと、誰に何を残し、どのように納税資金を確保するかなど、相続設計の大枠も自然と見えてくるものです。叶えたい相続の形が見えたなら、次のステップはそれを伝えること。家族会議や遺言書の作成など、相続対策につながる行動に着実につなげていきましょう。