2021年に発生した東京都八王子市のアパート外階段崩落事故は記憶に新しいところですが、今年の7月には札幌の空きアパートで、2階通路の床が抜けて女性が転落する事故が発生。またしても「建物が人を傷つける事故」が起きてしまいました。

建物を原因とした事故が発生した場合、その責任を問われるのは占有者および所有者です(民法第717条)。しかし、どれだけ入居者や訪問者の安全を守るように管理をしても、賃貸経営者が全ての事故を予測できるわけではありません。思いもよらない物件内の事故に対応する「施設賠償責任保険」をご存じでしょうか。

施設賠償責任保険が役立つ5つの場面

施設賠償責任保険は、施設の不備によって人や物に損害を与えてしまった場合に機能する保険です。賃貸経営の中では次のようなリスクに有効です。

①建物の不備・故障・損壊に伴う事故

前述の2つの事故のように、廊下や階段、手すり等が老朽化や施工不良によって壊れ、入居者等が巻き込まれる事故はどんな建物でも起こり得ます。こんなとき、被害者の治療費や財産の毀損を補償してくれるのが施設賠償責任保険です。建物の事故は日常の点検で防げるケースが大半ですが、中には、一見しただけでは危険を予期できないケースや、メンテナンスがタッチの差で間に合わないケースもあるものです。外壁タイルの剥落や、壁面設置の看板の落下に伴う人身事故・自動車等の破損事故も補償が受けられます。

②施設環境の問題に伴う事故

建物に破損等がなくとも、そのときの施設環境によって事故が発生する可能性もあります。例えば、マンションの共用部に滑りやすい床材が使われていたり、長尺シートの端が剥がれていたことで転倒事故が発生すれば、その損害賠償責任は最終的に所有者のもとに回ってきます。これも施設賠償責任保険の対象です。

③設備の不備に伴う事故

オートロックのドアやエレベーターも「施設」の一部。ここで起こった事故も施設賠償責任保険の対象です。エレベーターの定期的な保守点検をしていても、入居者等がドアに挟まれて怪我をする可能性はゼロではありません。

④駐車場や駐輪場での事故

たとえ建物の外であっても、施設の敷地内であれば施設賠償責任保険の適用範囲です。機械式の駐車場では昇降機の誤動作等による人的被害や車の被害が起こり得ますし、機械のない駐車場でも、段差用のスローププレートや、排水溝用のグレーチングの跳ね上がりによって車が傷つき、その損害賠償責任が発生する可能性があります。

⑤植栽等による事故

敷地内のものが保険適用範囲ということは、植栽やブロック塀による事故も補償対象ということです。「木の枝が落ちて人に当たった」字面だけ見ると大したことではないように思えますが、枝の太さによっては生命に関わる重大事故です。同様に、冬場の屋根からの落雪も、人が生き埋めになりかねない危険な事故。この場合、建物の屋根の不備が問題となり、所有者が責任を追及されます。

年間数千円から億単位をカバー

このようにさまざまなリスクをカバーしてくれる施設賠償責任保険ですが、保険料は一般に年間数千円から1万円程度。事故によっては億単位にもなり得る損害賠償をカバーできると考えれば、かなりお得な保険と言えるのではないでしょうか。

補償の範囲は保険会社によって異なるものの、人や物に対して発生した損害に対する損害賠償金のほか、訴訟になった場合の裁判費用や弁護士費用、事故発生時の応急手当や護送などに要した費用も賄うことが可能。もちろん、保険に頼るような事態とならないことが一番ですが、数十年に及ぶ賃貸経営なればこそ、上手な保険の活用でリスクを遠ざけ、安心・安全な経営を手に入れたいものです。