長期にわたる賃貸経営において、避けては通れないのが建物の「大規模修繕」です。建物の劣化を放置すれば、入居率の低下や大規模漏水等の事故リスクも高まります。予期せぬ出費に見舞われる前に、適時適切なメンテナンスについて知っておきましょう。

長期経営を支える大規模修繕計画

大規模修繕とは、大まかには表にあるような「共用部の大がかりな修繕工事」を指します。新築(または前回の大規模修繕)から5~15年目の周期で各所の修繕を実施し、賃貸経営の継続期間に合わせて2回、3回と修繕を重ねていくことになります。

修繕箇所周期実施項目
手すり・階段等の鉄部5~10年程度補修、塗装
屋根10~15年程度 ※2周期目以降補修、塗装、防水、葺き替え・重ね葺き
外壁10~15年程度 ※2周期目以降下地補修、塗装、シーリング打ち替え、サイディング張り替え
廊下・軒天・雨樋等10~15年程度補修、塗装、防水処理など

どれも建物の維持のために必要不可欠なメンテナンスですが、特に注意が必要なのが「屋根」と「外壁」。劣化から浸水等が起これば建物全体に深刻な影響が出る一方、修繕となればどちらも高額で大掛かりな工事となるため、いつ・どのように実施すべきか、早い時期からの検討が必要です。

屋根修繕は雨漏りする前に。材質で周期も異なる

屋根の大規模修繕は、主に防水機能の回復が目的です。屋根は紫外線や風雨に直接さらされる分、傷みも大きく、修繕を怠れば雨水の侵入に伴う雨漏りや、躯体部分の腐食の原因にもなりかねません。

具体的な修繕内容は、破損した屋根材の補修と塗装の塗り替えです。修繕時期は屋根の形状や材質によって異なりますが、スレート葺きであれば10~15年程度、ガルバリウム鋼板であれば20年前後が目安でしょう。塗り替えのコストは塗料の種類によって幅があり、シリコン系塗料であれば平米あたり3~4,000円、フッ素系塗料であれば4~5,000円。塗料はグレードに応じて防水機能を維持できる期間も変わるため、経営計画に合わせて選定しましょう。

なお、あまりに屋根の劣化がひどくなると、塗装等では間に合わず、屋根の葺き替えや重ね葺き(カバー工法)が必要となってしまいコストも工期もかさみます。葺き替え時期をできるだけ遠ざけるためにも、適切なタイミングの修繕で備えたいものです。

外壁塗装はメンテナンスだけでなく空室対策にも

外壁の修繕・塗り替えも、主目的は屋根と同様に防水機能の回復です。壁を軽くこすっただけで手に白い粉がべったりとつくようなら塗装検討の合図。これはチョーキング現象と呼ばれるもので、手についた粉は劣化によって浮き出てしまった塗料の一部です。

外壁の塗料は10年を経過した頃から劣化が顕著となるため、ひび割れの補修やシーリング打ち替えと合わせて、10~15年を目安に塗り替えましょう。なお、外壁の良し悪しは建物の美観に、そして内見者や入居者の印象に直結します。流行を取り入れた外壁塗装はメンテナンスだけでなく、積極的な空室対策としても活かせるため一石二鳥です。

外壁塗装の費用も屋根と同様、塗料の種類によって決まります。ただ、屋根にせよ外壁にせよ、塗装には「仮設足場」の費用が別途かかります。業者によって異なりますが、足場代は壁面1㎡につき1,500円程度。屋根と外壁の修繕をセットにすれば、足場代の節約にもなるので計画的に実施しましょう。

基本は長期修繕計画と、計画に沿った資金確保

大規模修繕について調べていくと、どうしても費用にばかり目が行きがちですが、「何か問題が起きてから修繕する」という選択はお勧めできません。仮に、雨漏りが発生してから屋根や外壁の修繕に取りかかるとしたら、雨漏り調査費や応急処置費、入居者家財の賠償、使用不能になった居室の空室損など、通常の修繕費に余計な費用も加わります。建物寿命を縮めながら割高なメンテナンスをするよりは、修繕時期・修繕内容を長いスパンで考える「長期修繕計画」を作成するほうが効率的です。

将来の計画が明確になり、大まかな費用の予測が立つようになれば、前もって修繕のための資金を準備することも容易になります。ちなみに、国土交通省の作成する『民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック』によれば、1K10戸の物件における1戸あたりの修繕費用(原状回復工事や設備交換も含む)は、30年間の合計で約180万円にも及ぶとのこと。1棟で1800万円と考えると途方もない金額に思えますが、30年間=360ヶ月で考えれば、月々の費用は戸あたり5,000円。事前に用意した計画のもと、月々の積み重ねでいざという時に備えることが重要なのです。

資金準備は毎月の積み立てから。共済利用で節税も

令和4年からは、賃貸住宅の大規模修繕費用を積み立てられる「賃貸住宅修繕共済」も動き出しました。木造・軽鉄の場合は築30年まで、RC造等は築40年までの物件が加入でき、外壁・屋根の修繕費用が対象。現状、自主的な修繕積立金には税制的な優遇がありませんが、共済を利用すると積立金を「共済掛金」として経費計上することが可能となり、節税効果が期待できることから、多くの賃貸経営者の注目が集まります。

どのような方法で資金を確保するにせよ、健全な賃貸経営は建物の健康維持が大前提。まずは管理会社と相談しながら長期修繕計画を立て、無理のない金額で毎月の積み立てを始めてみましょう。